Lens Impression
ニコンSマウントの製造本数が2,500本、ライカマウントは数百本ともいわれる少数生産の希少な超広角レンズです。
原型となっているのはCarl ZeissのトポゴンTopogon 2.5cm f4で、下の構成図を見てもかなり近似したレンズであることがうかがえます。
Topogon 2.5cm f4 |
Hypergon |
Celor |
さらにその基となったレンズが1900年に独ゲルツ社で開発された2群2枚の驚異的超広角レンズハイペルゴンHypergon(上図)です。
設計者は特許上(US706650)ではハイペルゴンはCarl Paul Goerzと社主の名前が記載されていますが,、実際はダゴールを設計したエミール・フォン・フーフ(Emil
von Hoegh 1865--1915)と言われています。
フーフは名前にvonが付いていることでも想像できるようにデンマーク貴族の末裔ですが、Carl Zeissのルドルフ博士が発明したアナスティグマートレンズの特徴を3枚貼り合わせで実現し、それを前後に配置してさらに高性能にしたダゴールの原型をCarl
Zeiss社に売り込んだものの採用されず、それで1892年設立6年目という若い会社であったゲルツ社に持ち込み採用されて入社したといういきさつを持っています。ダゴール、ハイペルゴンを設計した後、4群4枚の対称型レンズCelorツェロール(上図)を開発し、これは現在ダイアリート型と言われているもののオリジナルで、本来はツェロール型と呼ぶべきなのですが、なぜかあまり普及はしていません。
ハイペルゴンは非常に画角(135度)が広い上、光線角度に大きく影響される歪曲収差、像面湾曲、倍率色収差などが著しく小さいという優れた性質を持っていましたが、わずか2枚の凸レンズのみで構成されているため口径に左右される、球面収差と軸上色収差が補正できないという、構造的な欠陥を持っていました。そのため開放f値がf22という非常に限られた口径にせざるを得ませんでした。(ハイペルゴンは1939年ごろツァイスで2.5cmf8という小型で明るい試作品も作られていますが、、、)
トポゴンを開発したロベルト・リヒテル(Robert Richter 、1886年 - 1956年2月12日)は1914年にフォクトレンダー社でそのキャリアをスタートさせますが、1923年にゲルツ社に転職し、1927年にゲルツ社がツァイスに吸収合併される際ツァイスに移りました。彼はハイペルゴンに1対の凹レンズを加えることで収差の改善に成功し、1933年に画角100度f値6.3というレンズを開発(US2031792)します。中央の向かい合った凹レンズを一つにまとめて見れば、このレンズ構成は「トリプレット」の凸凹凸の性質を持ち、基本5収差の補正が可能であることが分かりますね。
緊迫した世界情勢のもと、航空写真、地図作成用として完成が喜ばれたのでしょう。このレンズは1930年代末にトポゴンTopogon 2.5cm f4.5として製品化されますが、f4.5はごくわずか(数十本)しか製造されず、のちにf4となって販売されます.
W-Nikkor 2.5cm f4は日本光学の東秀夫により昭和28年(1953)に設計され、翌年から販売されました。レンズ構成図を眺めると全くのデッドコピーのようにも見えますが、細部はきめ細かく改善されており、実写するとその違いがよく分かります。特に周辺光量はかなり改善されており、普段使いのレンズとしてもとても使いやすくなっています。また画面周辺部でも「広角っぽい?」画面の湾曲のようなものは全く感じられず、本当に超広角なのかどうか疑ってしまうようなすっきりとした直線が得られることも特筆に値すべきだと感じました。
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